令和4年度入学式 科長訓辞

 今年度より、中等科長となりました髙城彰吾です。3月まで高等科教頭を務めておりました。これからは中等科・高等科科長として、責任を全うしてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

 改めまして、新入生の皆さん、父母保証人ご家族の皆さま、入学おめでとうございます。桜の舞う目白の森でお会いでき、たいへん嬉しく思います。ご入学にあたり、一言、お迎えの言葉を申し述べさせていただきます。

 学習院は歴史ある学校で、弘化4年、京都に開かれました。明治10年(1877年)、東京・神田錦町に改めて開設され、多くの歳月を経て今日まで社会のリーダーを輩出して来ました。本日入学された皆さんが高等科最終学年となる2027年に150周年を迎えます。この百周年記念会館が完成してまもなく50年が経とうとしています。現在は耀院長の下、150周年を目指すこれからの6ヶ年を未来に向けての準備期間としてさまざまな計画を策定しているところです。

 中等科・高等科は人格の幹を作る大切な時期です。とくに中学生になるということで、行動の自由度が増す一方、社会的な責任が重くなってきます。この自由と責任については、これからの6年間いろいろな場面でいろいろな方から話をされることになると思います。私からも折に触れ改めて話をしていきたいと考えています。

 そのことも含めて、新入生の皆さんはここで過ごす毎日、勉強はもちろん部活動・委員会活動などを通して、多くのことを学ぶでしょう。学習院の理念は、「ひろい視野 たくましい創造力 ゆたかな感受性」という3つの言葉に表現されています。大勢の仲間が集う場では、同年代であっても一人ひとりが異なる考え方を持っているということを感じてください。皆さんは自分と異なる人たちの存在に気づき「ひろい視野」の大切さを知ることになると思います。そして友人や先輩・後輩、先生との交流を通して、それまでは感じ取ることのできなかった見方や考え方に気づき「ゆたかな感受性」が育まれていくのです。さらに、得られた知識・考え方を基に、仲間たちと共に「たくましい創造力」をもって、それまでなかった新しい主張を創り出してください。そういう機会を重ねるなかで、将来につながる何かにきっと出会うことでしょう。中等科・高等科で学んだものを糧として、その後はより専門的な知識・技能を身に付け、さらには社会の各方面に進んで、大いに活躍して欲しいと思います。

 ご家族の皆さまとしては、中学入学というお子様の成長の大きな節目を迎え、感慨ひとしおのことと拝察します。人の話では「子離れの時期」とも言われますが、意外に大人の面もあると喜べるときと、まだまだ大人扱いはできないと残念に、でもちょっと嬉しく感じるときとが交錯する時期ではないか、そのように思われます。ぜひ、その時期をこの学校とともに歩んでください。ご家族にとって最も身近な理解者としてこの学校は協力してまいります。

 さて学校生活を始めるにあたり、新入生の皆さん一人ひとりに私から強く求めたいことがあります。それは勉強をしたり、人と接したりする際に、つねにフランクな心をもって欲しいということです。フランク、という言葉分かりますか?辞典などで調べると、率直とか、ざっくばらんな様子、という意味が出てきます。ここで皆さんに求めたいのは、勉強するときや人と接するとき常に、自分の感覚にこだわり過ぎたり逆に相手を変に持ち上げたりせず、相手と自分を同等にリスペクトする(大切にする)心をもって欲しいということです。

 日々伝えられるニュースで、私たちは世界のあちこちで戦乱が絶えない難しい社会の現状を目の当たりにしています。そういう社会について学ぶにあたり、まずは自分の思い込みを持たず、いろいろな立場の意見をフランクに聞くこと、互いを同等にリスペクトする心を持つことが何よりも不可欠であると考えています。

 学習院150年の歴史の中に、苦難の時代がありました。太平洋戦争を乗り越えてこの国の新しい形が作られた時期に学習院長をお務めになった安倍能成先生のことを皆さんは覚えておいてください。この正堂の後ろの扉を出たところに先生の像が置かれています。安倍先生は哲学者であり、文部大臣として戦後日本の教育再興に尽力されました。その後、新しい教育制度の下で学習院の院長としてこの学校の在り方を示され、安倍先生によって学習院の現在があると言って過言ではありません。今日は歌うことができませんが、お手元の式次第に記された院歌を作られたのも安倍先生です。

 その先生の残された言葉に「正直であれ」というものがあります。正直であるとはたんに、嘘をつかない、ということだけではありません。自分の都合や捉え方を優先させることなく、事実に基づいて正しく物事を判断しようとする態度を指しています。先ほど申し上げたフランクな心、相手と自分を同等にリスペクトする心、これは安倍先生のおっしゃる「正直」という言葉の意味の深さであると私は考えています。これは皆さんに望むだけでなく、私自身、科長として皆さんや先生方と接する際に、自らへの戒めとしてそのように努めようと思います。

 近年のコロナ禍は学校に苦難の季節をもたらしています。厳しい状況の中でも工夫を積み重ね、フランクな心をもって共に多くを学び合って行こうではありませんか。

 

 簡単ではありますが、以上をもって入学式にあたっての言葉とさせていただきます。

 

令和447

学習院中等科長 髙城彰吾

 

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