令和6年度 卒業式 科長告辞
三年生の皆さん、中等科卒業おめでとうございます。
本日は、今年度の学校運営同様に特段一斉の感染症対策は取っておりませんが、必要に応じてマスクを着用したり近い距離での会話を控えめにするなどを意識してください。ご協力をお願いいたします。
本日は来賓として、学校法人学習院耀英一院長、 平野浩専務理事、島津忠美常務理事、城谷俊一郎常務理事、佐藤吉孝常務理事、学習院桜友会諸戸晴郎会長、学習院父母会大木喜紀副会長、 学習院中等科高等科櫻友会斉藤正彦会長にご臨席を賜っています。
ご来臨まことにありがとうございます。
今日は、皆さんに三つのことをお話ししようと思います。
皆さんは私が科長となって最初に中等科に迎えた新入生でした。一部の人たちとではありましたが、一年生二年生の時は幾何や代数の授業を担当し、教室での皆さんの様子を見ることができました。三年生になり、授業では会わなくなりましたが、休み時間や教室移動の際、あるいは学校行事など廊下や階段で久しぶりに会って言葉を交わすと、身長が伸び声も低く変わり、ああ大きくなったな、と感じながら少し離れたところから皆さんを眺めていました。山陰・広島の修学旅行に一緒に行くことがかなわなかったのが唯一の心残りですが、大きくなりましたね。
皆さんが入学したときに私の言ったことを覚えているでしょうか。覚えている人は少ないかもしれません。三年前の入学式、この場で私はこう言いました。学習院の理念である三つの言葉「ひろい視野」「たくましい創造力」「ゆたかな感受性」という言葉を日常の生活の中で実践してください、また、つねにフランクな心をもって欲しい。何となく聞いた覚えはあるだろうと思います。毎度同じことを言っているかもしれませんね。その言葉の意味はもう繰り返しませんが、勉強するときや人と接するとき、自分の感覚にこだわり過ぎたり、相手を変に持ち上げたり逆におとしめたりせず、相手と自分を同等にリスペクトする(大切にする)心をもって欲しいということを強く求めたつもりです。つまり人とフランクに接するとは、相手と自分を同等にリスペクトすることだといういうことです。中等科の一年生になり立ての皆さんには、ちょっと難しかったかもしれません。ただその後の学校生活を今思い返しみて、それぞれに何か思い当たることはありませんか。部活動や友だちづきあいの中で、「これが良い」と思うやり方やものごとの捉え方に、人と自分とで違いを感じたことがきっとあったと思います。考え方の違いで意見が合わないこともあったのではないでしょうか。自分の意見が通らなければ当然不満は残ります。ただ私が求めたことは、そういうときに相手、それは友人であったり下級生であったり場合によっては先生かもしれませんが、その人がなぜそのような主張をするのか、その考えの中に自分の気づかなかった何か大事なことが含まれているかもしれない、自分の考えにこだわり過ぎず相手の言うことの良さを謙虚に捉えて欲しい、ということなのです。どうでしょう。中等科を卒業するにあたり、いろいろな思い出の中に、そういうときの自分がどのように感じてどう行動したか振り返ってみて欲しいと考えています。また、この先はこれまで以上に社会全体の動きに目を向けることが増えるでしょう。ニュースで日々伝えられる世界のあちこちで起こる大きな災害や戦乱の絶えない難しい社会について学んで行かねばなりません。まずは自分の思い込みを持たず、いろいろな立場の意見をフランクに聞くこと、お互いを同等にリスペクトする心を持ってください。
安倍能成先生の残された「正直であれ」という言葉があります。正直とはたんに、嘘をつかない、ということだけではありません。自分の都合や捉え方を優先させることなく、事実に基づいて正しく物事を判断しようとする態度を指しています。先ほど申し上げたフランクな心、相手と自分を同等にリスペクトする心、これは安倍先生のおっしゃる「正直」という言葉につながるものだと私は考えています。皆さんはどう考えますか。
二つ目です。皆さんの多くは今回の卒業が幼稚園・保育園から数えて三回目の卒業だと思います。これまでの卒業と比べると、在学中の自分自身の変化というものをよりはっきりと自覚できているのではないでしょうか。三年前、皆さんは「大人の仲間入りです」と言われました。最初はあまり実感がなかったかもしれませんが、この三年間に例えば家で保護者に管理される、あるいは制限される、つまりあれこれと指図される事がらが徐々に減り、自分で決められる範囲が増えてきたのではないかと思います。学校でも先生から、だめだめ、という言葉の代わりに、よく考えてやってみたら、と言われるようになってきた人も少なくないことでしょう。管理されることが減り、自分の判断でできることやるべきことが増えてくる、これは周りから大人であることを期待されているということです。この流れは皆さんにとってチャンスです。この機会を自分のために活かすには、自分の中に自由を築く必要があります。自由とはただ管理や制限が減ることではありません。管理や制限が減った状況の中で自分がどのようにありたいかを思い描き、自分の人生をどうするか自分で判断することです。そのためには周囲の大人が皆さんに期待しているように、皆さん一人ひとりの自分自身に期待する心が大切です。自分自身に大いに期待し自分をリスペクトしてください。またそのきっかけをくれた周囲の人たち、ご家族や先生方をリスペクトしてください。
自分の人生を自由に切り拓く人を大人といいます。大人というものはその資格を人から与えられるものではなく、自分で自分の中に作っていくものです。このことをしっかり考え、自分自身への責任を果たし、周囲に信頼される大人に成長してください。
もう一つ考えておくべきことがあります。それは、ご家族への感謝です。この三年間の皆さんの成長を支えたのは何と言ってもご家族の方々であることを忘れてはなりません。皆さんが日々何かに力を注いだ以上に、ご家族は皆さんの毎日のために力を注ぎました。皆さんの生活全般、食事、洗濯はもとより、大事な時に道を踏み外さないようにと皆さんに分からないような工夫もなさったことでしょう。ご家族は誰よりも強く皆さんの成長を願い、祈り、案じていました。そのことへの感謝を、この機会に改めて感じてください。できればその感謝を言葉にすると良いでしょう。今日の日を迎えた感慨は、皆さんだけのものではないことを決して忘れないでください。
ご家族の皆様、ご子息の中等科ご卒業、まことにおめでとうございます。教職員一同、ご子息の成長を心よりお祝い申し上げますとともに、皆様のご協力に深く感謝いたします。
卒業生諸君、改めておめでとうございます。君たちの多くは高等科に進学しますが、他の進路を取る諸君もいます。このメンバーでこうして一堂に会うのは今日までとなりますが、中等科時代を共有する、いま傍らにいる友だちをこれからも大切にし、明日から始まる新しい生活をそれぞれに頑張ってください。
以上をもちまして、私からのはなむけの言葉といたします。
令和七年三月十七日
学習院中等科長 髙城彰吾