令和5年度入学式 科長訓辞

 新入生の皆さん、父母保証人ご家族の皆さま、入学おめでとうございます。

 

 今年はソメイヨシノの満開をだいぶ早く迎えましたが、この目白の森では桜の期間がわりあい長く続き、今もいろいろな桜が次々と咲いて新入生を迎えています。12月の帰国子弟および2月の入学試験を突破した諸君、初等科からの進学者、海外から帰国再入学の生徒、合わせて205名の新入生が今日ここに、新しい中等科のメンバーとして加わりました。教職員一同ご入学を心よりお慶び申し上げます。

 

 新入生諸君は見るからにきらきらしていますね。迎えるほうのこちらの気持ちもきらきらしています。皆さんの中等科生活が夢にあふれたものとなるように、学校として努力して行きたいと改めて感じています。

 

 本日は来賓として、学校法人学習院より耀英一院長、平野浩専務理事、香取純一常務理事、島津忠美常務理事、江崎博文常務理事、学習院桜友会より東園基政会長、学習院父母会より青山英史副会長、学習院中等科高等科櫻友会より斉藤正彦会長にご臨席を賜っています。ご来臨まことにありがとうございます。

 

 社会はいま新型コロナの影響から徐々に脱け出ようとするさなかにあります。ただ危機は過ぎ去ったわけではありません。本日の入学式では、新入生についてはマスクを自由としながら、感染対策として二年生だけは教室で参加し、歌についても最小限としています。中等科高等科は、感染症についてこれまでの方針を守りつつ、社会の動きになるべく合わせた対応を進めてまいります。ご理解をよろしくお願いいたします。

 

 ご存知のように学習院は歴史ある学校で、弘化四年、京都に開かれました。明治10年(1877年)、東京・神田錦町に改めて開設され、以降今日まで社会のリーダーを輩出して来ました。2027年に創立150周年を迎えます。現在は耀院長の下、4年後の150周年を目途に、その先の未来に向けての準備としてさまざまな計画を策定しているところです。

 

 学習院の中で、中等科高等科は人格の幹を形作る大切な時期を担っています。皆さんは中学生になれば大人の仲間入りだと言われていることでしょう。自分の判断できる範囲が広がる一方、社会的な責任が重くなると言われ、またそれぞれに感じていると思います。高等科を卒業するときには十八歳の成人となり、大きな責任を負うことになります。自由と責任ということについては、中等科高等科6年間の大きなテーマです。私からも折に触れ改めて話をしていきたいと考えています。

 

 その自由についてですが、皆さんは「学習院て意外と自由な学校だ」といわれるのを聞いたことがあるでしょうか。学習院を知っている私などにとっては特に意外ではないのですが、歴史と伝統を大切にしながら同時に自由な学校でもあるということは、これから中等科に入学する皆さんにはやや意外であるかもしれません。歴史と伝統、という言葉からのイメージは、形式を重んじて新しいことに手を出さない、そういったものでしょうか。学習院でも形を大切にするという面はもちろんあります。ただ学校はつねに、その時の生徒とともに未来の生き方を考える場でなければなりません。そのためには、過去の殻に閉じこもっているのではなく、広い世界をよく見て、敏感に感じ取り、新しい発想を巡らせる必要があるのです。学習院では昔からそのことを歴史・伝統とともに大切にして、社会で活躍する卒業生を輩出してきました。決して意外ではなく、社会に開かれた学校で有り続けるために、自由を大切にしてきているのです。

 

 現在、学習院の理念は「ひろい視野 たくましい創造力 ゆたかな感受性」という三つの言葉に表現されています。過去の殻に閉じこもることなく、広い世界をよく見て、敏感に感じ取り、創造的な発想を巡らせることを表しています。この三つの言葉をまず覚えておいてください。さらに、この言葉を皆さんの日々の生活に活かすには、もう一つ鍵になる言葉があります。それは、学習院が戦後に私学として再出発した時期に学習院長をお務めになった安倍先生の残された「正直であれ」という言葉です。安倍先生は哲学者であり、文部大臣として戦後日本の教育再興に尽力され、その後、新しい教育制度の下で院長として学習院の在り方を示されました。この後に今日は一番だけを歌う院歌を作られたのも安倍先生です。正直とは、嘘をつかない、ということですが、それだけではありません。事実に基づいてありのまま物ごとを捉えようとすること、自分の立場からの見方や都合を優先させることなく、公平な態度を取ることを指しているのだと思います。これまで皆さんは、多くの場面でまず自分の考えをしっかり持つことを望まれてきたと思います。とても大事なことです。ただそれで充分ではないのです。自分の考えを持つ一方でその見方にこだわらず、その上で、ありのまま物ごとを捉えようとしなければなりません。そういった真実に対する謙虚な態度、これが正直という言葉の意味なのだと私は思います。そのような態度を取るためには、他の人の考えを受け容れるフランクな心をもつことが大切です。フランクとは、率直とか、ざっくばらんな様子です。勉強するときや人と接するとき、自分の感覚にこだわり過ぎたり逆に相手を変に持ち上げたり、あるいはおとしめたりせず、相手と自分を同等にリスペクトするフランクな心を持ち、皆が対等に、お互いの理解に基づくひろい視野、たくましい創造力、ゆたかな感受性を育んで欲しい、そう考えています。

 

 ご家族の皆さま、中等科入学という節目を迎え、感慨ひとしおのことと拝察します。子どもの成長は決してエスカレーターのようではありません。自分で上る階段という表現も近いものがありますが、一方通行に上るだけをしてくれるわけではなく上ったり下りたりの連続です。時折大人の顔を見せるものの、まだまだ子どもだと感じるときも多くあるでしょう。それが中学生です。お子さまがさまざまな表情を見せるこの時期を、是非この学校とともに歩んでください。ご家族にとって最も身近な存在としてこの学校は協力してまいります。

 

 新入生諸君、皆さんの小学校・初等科時代の後半は新型コロナの影響を直接受けた形となりました。ほとんどすべての事がらに制限が伴い、つまらない思いもあったと思います。これから始まる中等科での生活は徐々に本来のものに戻り、勉強とともに部活動・委員会活動、学校行事が盛りだくさんに用意されて皆さんを待っています。ここで過ごす毎日を大いに楽しんでください。そして多くのことを学んでください。社会に開かれた学習院の自由な中等科で学ぶにあたり、まだまだ自分の知らないことがたくさんあることに気づき、思い込みを持たずに相手と自分を同等にリスペクトしてください。フランクな心をもって共に多くを学び合って行こうではありませんか。

 

 以上をもちまして、新入生の皆さんを迎えるにあたっての私からの言葉といたします。

 

 

令和五年四月七日

 

学習院中等科長 髙城彰吾

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