令和3年度入学式 科長訓辞

 

 

学習院中等科・高等科

科長 武市 憲幸

 

中等科入学式訓辞

 

 


 新しい季節が始まり、木々の緑も目に新しく映るこの日、新入生のみなさんを迎えて入学式を行なえることを大変うれしく思います。
 殊に昨年度の入学式は、新型コロナウイルス感染症の影響で、当初予定されていた日からおよそ2カ月遅れ、新入生と教員のみの式となってしまいました。本日も在校生諸君の参列は叶いませんでしたが、こうして保護者の方々とともに入学式が挙行することができて、感慨もひとしおです。
 新入生のみなさん、そして父母保証人の皆さま、本日はご入学おめでとうございます。
 学習院の教育目標は、「広い視野」、「たくましい創造力」、「ゆたかな感受性」という3つのことばで表現されています。そして私がこれからの君たちに望むのは、中高の6年間をかけて自分が「打ち込めるもの」を探して欲しい、ということです。「打ち込めるもの」とは「他人からやらされるものではなく、みずからのありったけの力を注ぎ込み、そのことのためにはつらいことや苦しいこともいとわない対象」と定義したいと思います。そしてこの「打ち込めるもの」が先ほどの3つの教育目標とどのように関わっているのかお話ししたいと思います。
 「打ち込めるもの」とはただ「好きなもの」とは区別されなければなりません。もちろん「好きなもの」が「打ち込めるもの」の入り口にはなるかもしれません。しかしそれが本当に自分にとって価値があり、自己の力を注ぎうる対象になるためには、他の価値と比べたり、ぶつけたりして、いわばやすりにかけてゆくことが必要になるのです。殊に君たちはまだ若く、これから先どのような自分に出会えるのか未知数なのです。ですから、単なる好き/嫌いという価値観でものごとを切り分けてしまうと自分自身の可能性の芽をみずから摘んでしまうことになりかねません。どうか「広い視野」を持って、進んで自分とは異質なものと出会い、本当の意味での「打ち込めるもの」=真の意味でその価値を追求するに値するものに巡り合って欲しいと思います。
 そして様々なものやことに触れて、「心を動かすこと」が「豊かな感受性」です。何かに感動して心を震わせること、このことこそが自分が「打ち込めるもの」にたどり着くためのエネルギー源になりうるのです。これからの中高6年間、様々な体験をして「心を震わせて」下さい。またそれはただ「学校」という狭い場所だけに限定されるものではありません。読書や音楽や映画など様々な場所で感動するものに巡り合って下さい。なぜなら感受性の幅とは、同時に人間性の幅でもあり、その素地はこれからの6年間に作られてゆくものだからです。「豊かな感受性」とは「豊かな人間性」のことに他ならないのです。
「広い視野」と「豊かな感受性」によって自分自身が発見した「打ち込めるもの」こそが、最後の「たくましい創造力」につながってゆくのです。私は教員として数多くの卒業生を送り出して来ました。そして君たちの先輩の中に、中高6年の間に育んだ「打ち込めるもの」を土台として、現在「たくましい創造力」でもって自らの道を切り開いている者を数多く知っています。われわれ教員は、君たちが、そうした先輩に続くために努力を惜しみません。様々な教科やクラブ活動や委員会活動、そして学校行事を通して自分の「打ち込めるもの」を探してゆきましょう。
 父母保証人の皆さま、本日は学校法人学習院を代表して、耀院長、平野専務理事にご参列いただいております。またご来賓として大木父母会副会長にもご列席いただいております。私たち学習院の教職員一同、ご子息のご入学を心よりお祝い申し上げます。
 昨年の2月頃から始まった新型コロナウイルス感染症の騒動は、教育の現場にも甚大な影響を及ぼしました。父母保証人の皆さまに置かれましても、この間のご心労は大変なものだったと拝察いたします。本校においては、これまで感染症対策にできる限りの措置を講じて、対応に努めて参りました。その対策の効もあってか、幸い校内での感染も発生せずにこれまで教育を続けて来ることができました。しかし、この先もまだまだ予断を許さない状況がしばらく続くであろうことはご承知の通りです。私たちは今後とも、その時その時の状況に応じて、できる限りの対策をとって参りつもりです。そしてその際、皆様のご理解、ご協力が必要になって来ると思いますので、どうかよろしくお願い申し上げます。
 さて、一人の人間を育て上げるということは、手間も時間もかかるものです。しかし、その手間がどんなに煩わしいものであろうとも、けっして省くわけにはいきません。手間や時間を省いて効率だけを追い求める教育はどこかで必ずほころびが現れて来るのだと思います。ご子息が将来自分自身の力で自分の道を切り拓いてゆけるように、私たち教員は、一人一人の個性にじっくりと向き合っていきたいと考えております。父母保証人の方々とわれわれ教員が共に試行錯誤を繰り返しながらご子息を充実した人生に導いていければ、と願っております。
 本日のご入学を心よりお慶び申し上げます。
以上をもちまして入学式の訓辞といたします。

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